【第9回】すり足の踊り場 ―― なぜ私たちは「理解できた」と勘違いして立ち止まるのか [L5-S13-C009]

【第9回】すり足の踊り場 ―― なぜ私たちは「理解できた」と勘違いして立ち止まるのか [L5-S13-C009]
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※本連載の原点となる第1回の記事はこちら

降下が止まる平坦な空間「踊り場」

前回の第8回の記事において、私たちは「知る」という行為が暗がりに照明弾を落とすことであり、アバターが衝撃波の推力に乗って、あなたの核心に向かって静かに下っていく幾何学を確認した。

底が抜けた直後の空間では、対象のすべてが新鮮であり、落とされる情報(石)はどれもあなたの水底を激しく叩き、強い推力を生み出し続ける。アバターは順調に、深い坂道を下っていくように見える。

しかし、この降下は永遠には続かない。やがてアバターの足元から坂道の角度は失われ、暗闇の途中に「平坦な床」が現れる。

波紋坂道理論において、この途中の平らな空間を「踊り場」と呼ぶ。

「慣れ」がもたらす推力の減衰

なぜ、坂道は途中で平らになってしまうのか。それは、私たち人間が持つ「情報への慣れ」という避けられない性質が引き起こす、波紋(推力)の減衰である。

関係の初期、あるいは新しいジャンルに触れたばかりの頃は、どんな些細な情報も強烈な衝撃波を生む。しかし時間が経つにつれ、落とされる照明弾(情報)は「今日はどこへ行った」「休日は何をしている」「このニュースの表面的な続報」といった、予測可能で日常的なものへと変わっていく。

情報に慣れてしまうと、それが水底に当たっても大きな衝撃は生まれない。波紋は小さなさざ波程度になり、アバターをあなたの核心へと押し流す「推力」は次第に弱まっていく。

そしてついに推力が尽きた時、下へ向かう重力は失われ、アバターは平坦な「踊り場」へと着地してしまうのだ。

水平方向への「横滑り」と、情報の蓄積

推力が減衰し、踊り場に降り立ったアバターは、もうそれ以上深い場所(あなたの核心)へは下りてこない。

しかし、私たちはその後も対象と関わり続け、日常的な新しい情報を得続ける。では、推力を持たないそれらの小さな情報たちはどこへ行くのか?

それは、アバターを「水平方向へのみ」移動させる小さな力として消費される。

「あの人はあそこのカフェが好きらしい」「このジャンルにはこんな派生作品があるらしい」。そうした新しい情報を得るたびに、アバターは暗闇の踊り場を、自分自身の核心には近づかないまま、横へ横へと静かにスライド(横滑り)していく。

下へは1ミリも進んでいないのに、平坦な床の上をただデータだけを集めて滑り続ける。これが、幾何学における「すり足」の一方向移動である。

「理解できた」という残酷な錯覚

この「踊り場のすり足」が幾何学において最も恐ろしいのは、私たちがこの状態を「相手(対象)のことが完全に理解できた」と勘違いしてしまうことだ。

アバターが下へ落ちていく恐怖や動揺がなくなり、平坦な場所で安定している。さらに、水平方向へスライドし続けることで「表面的な情報量(横の広がり)」だけは確実に増えていく。

この「感情の安定」と「情報量の増加」を掛け合わせた時、私たちの脳内に致命的な錯覚が生まれる。

「もう長年一緒にいるから、相手のことは私が一番よく分かっている」 「あの問題については、一通りの知識を網羅したから完全に理解した」

そう言って立ち止まり、安心している時。実は私たちは、対象の本当の深淵(あなたの核心)には全く届いていない。ただ、暗闇の途中にできた安全な踊り場で横滑りし、表面的なデータを一列に並べているだけなのだ。

「慣れ」による推力の減衰は、私たちから「さらに深く知ろうとする力」を奪い、踊り場という名の「浅いデータ蓄積」に幽閉してしまうのである。

では、この平坦な踊り場での関係性が、永遠に続くのかといえばそうではない。 安全だと思い込んでいた床が突然消滅し、コントロールを失って真っ逆さまに落ちていく瞬間が必ず訪れる。

次回、第10回「垂直落下の崖 ―― 隠された「鉱脈」と「活断層」がもたらす急激な落下」へと足を踏み入れよう。


■ 波紋坂道理論:これまでの観測記録はこちら

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リラグネット

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はじめまして!食品工場勤務のリラグネットです。 ブログ開設後2年間完全に放置していましたが、乃木坂46のゲーム記録から執筆リハビリを開始。現在はAIを駆使してサイトを本格的に大改修中です! ガンダムや『さよなら絶望先生』、ミッシェルからケミカルブラザーズ、京極夏彦、劇団☆新感線まで、大好きなカルチャーとブログ運営のリアルを語ります。

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